幽霊に取り憑かれた花子

統合失調症患者の妄想と現実

詩「山で霞を食べる生活」。幽霊がいなくなり、風呂にも入れるようになった。

 こんにちは。花子です。

 

 まずは詩です。

「山で霞を食べる生活」

かつてこの世でたったひとりになって、仙人になりたいと思っていたことがあった

ひとり山にこもって、仙人のような生活がしたかった

俗世間で生きるのがわずらわしく、つらかった

もうこの世から逃げ出したかった

この世の常識を当たり前と思えなかったし、社会人としてのマナーなんてものは身につけられそうになかった

この社会に私の居場所はなかった

大人になった私の居場所は誰も用意してくれていなかったし、自分でも見つけられなかった

 

ひとり自分の部屋で仙人が現れるのを待っていた

仙人がやって来たら、仙人にしてくださいと頼もうかと思っていた

でも私は杜子春と同じ

仙人になる資格を持ち合わせていない

ヤギになった両親を殺すことはできない

そもそもただの普通のヤギですら殺すことはできないのだが

だからもし殺してしまったとしたら、私も杜子春と同じく激しく後悔するのだろう

 

山にこもって、霞を食べ、時々俗世間の様子を見に下界へ下りる

そんな生活がキラキラ輝いて見えた

でもなんてつまらないんだろう

もう私はひとりでいたいなんて思わない

人と関わることの楽しさを知ったら、もうひとりでなんていられない

それでもひとりでいたい、人と関わりたくないと思っていた時があったのだ

 

結局私は何もしたくなかったのだ

すべてから逃げたかっただけなのだ

山で霞を食べていたら、お金を稼がなくてもすむし、社会に出て働かなくてもいい

私は働かなければならないということから逃げたかっただけなのだ

働きたくない

みんなと同じようにできない

したいと思えない

みんなの当たり前が私の当たり前じゃない

ひとりになれば何が当たり前なのかなんて考えなくてもいい

だからひとりに憧れていたのだろうか

 

でも私は今の生活を捨てることはできない

家族がいる、家がある、食べ物がある

そういう生活を離れてしまえば、きっと私は寂しいなんて思うのだろう

 

ひとりで山にいたってつまらないじゃないか

でもなんて悠々自適な生活なんだろうと思っていた

ただこの地球を楽しむだけの生活で、自然の変化、俗世間の変化をただ見ているだけ

世間にもまれて何かをしなければならないということがない

 

だけど私は仙人などではなくて、ただの人なのだ

人として精一杯生きるしかない

そうじゃないと生きてるって言わないんじゃないか?

嫌なことから逃げてもいい

案外どんなことでも、どうにでもなるんじゃないだろうか

 詩はここまでです。

 

 さて、いつものです。

 本当に幽霊から解放されました。口のひきつりも体のガクガクもぞわぞわ感も全部なくなりました。嬉しかったと思います。どうなるかなんて分かりませんでしたが、まさかこんなに楽になれる日が来るとは思いませんでした。でもこれが入院中だったので、手放しでは喜べませんでした。私にとって入院しているということは楽なことではなかったのです。

 ご飯も普通に食べられていたので、点滴もとれました。服やタオルの管理も自分でするようになりました。お風呂にも入れるようになりました。拘束も完全にとれ、いつでも自由に歩き回れるようになりました。

 ただしまだ詰所のモニターに心電図のようなものを映すための機械はつけていました。胸に三か所、ボタンぐらいの大きさのものをテープでつけられ、それが線で手のひらぐらいの大きさの機械につながっていました。それをズボンのポケットに入れていました。これが詰所のモニターに無線でつながっていたのです。でもしばらくしたら、この機械もとれました。

 まだどんな患者さんがいるかほとんど知らなかった頃、ご飯の後である患者さんが話しかけてきました。この人は自発的にテーブルを拭いたり、ちょっとした雑用をしたりしていた人でした。

「仲良くしましょう」

と言われたと思います。

「私の部屋はこっち」

と言って、私の手を引っぱって行きました。幸いこの人の部屋は詰所を通らないと行けないところにあったので、看護師さん達がそれを見て、

「花子さん、ちょっと」

と言って、この人から引き離してくれました。この後はもうこんなことは起こりませんでした。

 風呂場の扉にお風呂に入る人のリストが貼ってありました。私の名前が一番上だったのですが、一番最初に同じ部屋だったおばあさんが

「重症の人から入るんだよ」

と教えてくれました。この時私は体の異常がすっかりなくなっていたので、まさか自分が一番重症だと思われているとは思いませんでした。でもよくよく考えてみると、つい最近まで寝てるばっかりだった人がそんなに早く治るとは誰も思わないでしょう。当然のことだったのです。

 久しぶりのお風呂でした。どんな感じだったかはもう忘れてしまいました。でもこの時の私は私の中ではもう普通でした。介助も必要ありませんでした。

 今日はここまでです。

 

 最近の幽霊さんは、もうほとんど感じなくなってきました。暖かくなってきたので、全身のガクガクもないし、机に向かっているときの足の震えももうほとんどありません。ちょっと顔に出る時がないわけではありませんが、前よりひどくはありません。ダイエットも今のところ成功してるし、最近調子がいいし、割となんでもできるし、かなり良くなりました。このまま良くなり続けたいと思います。